古書の来歴

古書の来歴

古書の来歴

いやあ、ここ数年読んだ中でもダントツに面白かったこの本。文庫じゃないし、重いし、、と最初は文句を言っていたのに、読み始めたらもうはまるはまる。面白いし、感動するし、泣けるし、、。この本と出会えてよかったなと思うくらい感動できる本だった。
あらすじはこんな感じ。

100年ものあいだ行方が知れなかった稀覯本サラエボ・ハガダー」が発見された――
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐさまサラエボに向かった。
ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で使われるヘブライ語で祈りや詩篇が書かれた書である。
今回発見されたサラエボ・ハガダーは、実在する最古のハガダーとも言われており、
500年前、中世スペインで作られたと伝えられていた。
また、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていることでも知られていた。
それが1894年に存在を確認されたのを最後に紛争で行方知れずになっていたのだ。
鑑定を行ったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。
それを皮切りに、ハガダーは封印していた歴史をひも解きはじめ・・・・。

異端審問、焚書、迫害、紛争――
運命に翻弄されながらも激動の歴史を生き抜いた1冊の美しい稀覯本と、
それにまつわる人々を描いた歴史ミステリ。

ストーリーは、古書鑑定家のハンナが鑑定を始める1996年〜2002年と、この本がたどってきた時代(第二次大戦の頃から1400年代までだんだんさかのぼっていく)が交互に登場し、この本のたどってきた歴史と、取り巻く人々の運命がだんだんと解き明かされていく。
1996年のサラエボは、まさに戦火のさなか。そう、そんな遠くない過去に、こんな悲惨な戦争が行われていたんだよなあ。そこで登場する、サラエボの博物館の学芸員の言葉がとても重い。
現代版のストーリーの方では、鑑定家ハンナとその母で脳外科医のサラとの対立が物語をより面白くさせている。シングルマザーでハンナを育てて、超優秀な脳外科医でもある誇り高い母、サラ。その母は、娘が医者ではなく古書鑑定の道を進んだことを心底残念に思っていたりして。この母子の葛藤、なんだかすごくわかるなあ。
そして、過去の章では、この本がたどってきた過酷な歴史が語られる。そこで語られているのは、ユダヤ教徒のたどってきたあまりにも厳しい道のりだ。でも、そこにはいろんな人の善意があったり、つらい人生の中でもなんとか前向きに生きていこうとする人々のひたむきな姿があったり。悲しいだけじゃない、人間のいろんな面を見ることもできる。
第二次大戦下、焚書の憂き目に遭いそうだったこのハガターを、命がけで救ったのはイスラム教徒の学芸員だったし、今回、ボスニア紛争の中で、やはり命がけで本を守ったのもイスラム教徒だった、、というところもなんだか象徴的で感動的だ。
このサラエボ・ハガターは実在する本らしい。1400年代〜19世紀末頃の話は、全くのフィクションだけれど、二度の戦火から、イスラム教徒の学芸員が本を守った、、というのは事実らしい。
この本を読んでみて、いつの日かサラエボに行き、このサラエボ・ハガターの実物をこの目で見てみたい、、としみじみ思った。素晴らしい1冊だったので、本好きな方にはすごくおすすめ。