『彼の個人的な運命』

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

先週旦那が、「この本面白そうやで」と買ってきてくれたのが、『彼の個人的な運命』。フレンチミステリで、藤田真利子さん訳ってことはなかなか面白そうだなあって興味を惹かれた。で、今週電車の中で読み始めたら、これがめちゃめちゃ面白かった。思わず電車を乗り越してしまいそうになったり、つい駅の構内で立ち止まって区切りの良いところまで読んじゃおう、、と止まらなかったり。
本の後書きに載っている作者、作品の紹介をちょっとだけ引用してご紹介。ちなみに、ヴァルガスは考古学の専門家で、国立科学研究センターに籍を置いてるらしい。

ヴァルガスは、デビュー間もない90年代のはじめ、“三聖人”の連作三作を立て続けに発表した。ここにご紹介する『彼の個人的な運命』は、1997年に刊行された、“三聖人”シリーズの三作目にあたる。
先史時代だけにとどまらない作者自身の歴史への幅広い興味を、そのまま擬人化したようなマルク(中世専門)、マティアス(先史時代専門)、リュシアン(第一次大戦専門)は、そろそろ中年にさしかかろうかという歴史学者である。揃いも揃って失業中の彼らは、マルクの叔父である元刑事のアルマンを加えた4人で、パリの目立たない通りにあるシャール街に佇む屋根裏部屋もある四階建ての古びた屋敷(またの名をぼろ館)を借り、共同生活を始める。この連作はそこからスタートした。
アルマンが同じ屋根の下で暮らす3人を、新約聖書福音書の記述者に喩えて、マルコ、マタイ、ルカのあだ名で呼んだことが“三聖人”というシリーズ名の由来である。

物語は、娼婦を引退して、古書の露天商を細々と営むマルトのもとを、アコーディオン弾きの青年が訪ねてくるところから始まる。発達障害を抱え、親から捨て置かれる少年時代を過ごした彼には、当時近所に住まうマルトから優しくされた過去があった。しかし再会の喜びにひたる間もなく、16年前に読み書きの手ほどきをした少年が、パリ市民を震撼させている連続殺人事件の容疑者だという事実に、マルトはおびえてしまう。

少年の無実を信じるマルトが頼ったのが、元内務省のルイと、ぼろ館に住む三聖人。そこから真相追求が始まり、、ってことなんだけど、その登場人物がみんな生き生きと描かれていてとても面白い。元売春婦が、足を洗ってやってる仕事が、ノートルダムの近く、セーヌ沿いのブキニストだっていうのもなんだか興味深い。セーヌ沿いにいっぱいあったブキニストの風景を目に浮かべながら読んだ。パリのいろんな通りの名前も出てきて、ユニベルシテ通りとかアンヴァリッドとか、よく通ったとこだよなあ、、なんて思いつつ。そうやってパリの情景を思い描きながら読むとますます楽しくて引き込まれる。やっぱりパリって絵になる街だよな、、なんてね。
ミステリは、最初ちょっとABC殺人事件を思い出したりしたんだけど、それ以上にもっと仕組まれた罠だったのかあ、、とか。過去の事件がいろいろ出てきて、なるほど、、と思わせてくれた。
フランス好き、パリ好きな人にはとってもおすすめのミステリ。三聖人シリーズはこの前に2作あるらしく、そっちも読みたくなった。でも、今のところ三聖人シリーズはここまで、この作品より後は書かれてないそうで。続きも書いてほしいなあ。