愛の裏側は闇

愛の裏側は闇 (1)

愛の裏側は闇 (1)

私の好きな、フォルカー・クッチャーのミステリーを翻訳している酒寄進一さんが翻訳された本『愛の裏側は闇』。私が気に入りそうかも?と旦那に勧められて、手に取ってみた。今、ニュースなんかでもかなり話題のシリアが舞台。荒廃したシリアの景色に胸を痛めていたんだけど、よく考えたら、私、シリアの事ほとんど知らないなあ、、と思い、この本を手にとってみた。あらすじはこんな感じ。(東京創元社のHPより。)

「ねえ、ぼくたちの恋は本当にうまくいくと思う?」1960年春、シリア。ムシュターク家のファリードとシャヒーン家のラナーは、一族の者に隠れて逢瀬を続けていた。十二歳で出会ってすぐ、恋に落ちたふたり。しかし両家は、何十年ものあいだ血で血を洗う争いを続ける仇敵同士だったのだ。一方、1969年のダマスカスで首の骨を折られた男の死体が発見される。殺害されたのは秘密警察官で、胸ポケットには謎めいた文章が書かれた灰白色の紙が残されていた。ふたつの物語の断片に、一族の来歴、語り部による哀話や復讐譚を加えて構成された全304章は、百年にわたるシリアの人々・風土・文化が埋め込まれた絢爛たるモザイク画となる。今世紀最大級の世界文学第一巻! 

簡単に言えば、シリア版のロミオとジュリエットという感じのお話。それにしても、私がかなり驚いたのは、この本の主人公たちが、イスラム教徒ではなくキリスト教徒だという事。そっか、シリアにもキリスト教徒がいたのよね。キリスト教徒の家同志が仇敵なんだけど、片方が東方典礼カトリック教会、片方はギリシャ正教会の信者。キリスト教徒が主に暮らす村の中で、両家が争っているんだけれど、そうとは知らず、都会のダマスカスで育った少年と少女が、お互いの家の背景を知らないまま恋に落ちて。でも、もちろんそう簡単にいくわけもなく。
物語は、この二人の主人公の父母世代、祖父母世代にまでさかのぼって話が展開して、すごく壮大。でも、人の名前と関係が複雑で、最初のページに載ってる家系図が必須。何回もここに戻ってきては、「え〜っとこの人は、この家系図のここに載ってるこれね!」と確認しなくてはならない。ちょっと面倒だけど、でも今までなじみのなかったシリアの風景がすごくクッキリ目に浮かんでくる。そして、そこで生きている人たちのいろんな人生が見えてきてすごく面白い。
作者のラフィク・シャミはシリア、ダマスカス旧市街のキリスト教徒居住区出身。1965年にドイツに亡命して、以後、ドイツで活動している作家。この『愛の裏側は闇』もドイツで発表されたドイツ語でかかれた小説。小説ではあるけれど、実在の人物や、自分の体験などをもとに書かれた部分も多いらしい。昨今のシリアの情勢の元になるような愛憎も、なんだかこの作品を見ていると、根っこの部分が少しだけわかってくる気がする。アラブ世界らしい文化や風土について、人の気性なんかについて、現代日本に住んでいる草食系弱々しい系日本人の私からすると、想像を軽く越えちゃうって思うところも多く。でも、なるほどなあ、、って、少しずつ理解できる気がしてきた。
ここ最近の情勢では、ますますキリスト教徒がシリアで暮らすのは難しくなっているみたい。彼の両親のふるさと、キリスト教徒の村であるマルーラ村は、アルカイーダに攻撃されてキリスト教徒が暮らせなくなっていたりするようだ。宗教は、時に人を救うけれど、時に人を争わせ、いさかいの元になるものだなあ、、としみじみ感じる。
と、いろいろ感想を書いたけど、実はまだ一巻の途中!これ全部で三巻の壮大なストーリーなんだよね。全部読んだらまた感想アップします。じっくり読んでいこうっと。