服従

服従

服従

ここんところ、読書の調子が出ないなあ、、ってちょっと思っていた。読もうと思った本がなかなか読み進められず、読むスピードがますます落ちちゃってる?と思ったんだけど。この本は、旦那が買ってきてくれて、「これ、話題作だから、読んで感想聞かせて。」なんて言うので、ちょっと読み出してみた。そうしたら、これすっごく面白い。どんどん引き込まれた。さすが、話題になるだけの事はある。で、とぼけた私は、本の帯とかちらっと見てたのに、「ふ〜ん、シャルリーエブド事件の当日に発売されたんだあ。」と思っただけで、現代を描いた小説と思っていた。この本の舞台が2022年って気づいてなかった。現在、今、2015年頃のフランスが舞台なんだと思ってたら、2022年のパリが舞台とは。なるほど〜。それで途中、ちょっといろいろ「あれ?」と思うような描写があり、2017年の選挙が過去のものとして語られてるのを見てようやっと気づいた。アホです。で、本の出版社のページに載ってる内容紹介はこんな感じ。

2022年フランスにイスラーム政権誕生。
シャルリー・エブドのテロ当日に発売された、
世界を揺るがす衝撃のベストセラー、日本上陸。

読み終わって、呆然としながら、自分にこう言い聞かせなければならなかった。

「これは小説であって現実ではないんだ」と。

「こんなことは起こらない‥‥たぶん‥いや、もしかしたら」

──高橋源一郎(作家)



シニカルな状況認識、政治的な無力感、そして人間の滑稽さに対する冷め切った視線。

ウエルベックはヨーロッパの未来も若者の力もなにも信じていない。

けれど、その残酷さこそが文学の力なのだ。

 日本にはこんな作家はいない。
読むべし! 

──東 浩紀(批評家)



読んでる途中、恐くて背筋が寒くなった。う〜ん、これって「絶対ない!こんな事あり得ない!」とは言えないよなあ。としみじみ。最後まで読み通してみると、すごく皮肉が効いた作品だなあという気もした。(以下ネタバレあり)
2022年のフランス大統領選挙。最終投票に残った二人の候補は、国民戦線イスラーム同胞党。最初の投票での得票数が一番多かったのは、極右の国民戦線の候補者だったんだけど、決選投票では、「ファシストよりはマシかも」という事で、中道右派社会党もみんなイスラーム同胞党を支持して、結果的にイスラーム政権が発足。
物語の主人公は、大学でフランス近代文学を教える教授で独身。自由だけれど孤独を感じている。彼が、一旦は教授を解任される(とはいえ、すごい金額の年金をもらえるので、生活は安泰なはず)んだけど、最終的にはイスラムに改宗して教授に再任される。
自由よりも服従の方が楽だよね、、っていうところがシニカルな感じで描かれてる。主人公が、学長になった同僚の、15歳妻を羨ましがってるところが、ちょっと正直すぎて笑えたよ。「あんたのポイントは結局そこでしょ!」とか思ってしまった。
自由や行き過ぎた個人主義、女性の社会進出が、ヨーロッパを衰退させてしまった、という議論。なんだか日本の右翼の人たちが喜びそうな論理だわ。家父長制の復活とか。イスラームの考えと、日本の右翼って、結構似通ってるなあ、、としみじみ。という事は、日本にだって、そういう政権が生まれてもおかしくないかも、、と思うとやはり背筋が寒くなる。そういう政権がもし生まれちゃったら、みんな「長いものには巻かれろ」式で、すっかり服従しちゃうだろうな。その服従っぷりはきっとフランスの比じゃないよ、、なんてね。想像しちゃった。いろいろ興味深い本だった。