呉漢

呉漢 - 上巻 (単行本)

呉漢 - 上巻 (単行本)

呉漢 - 下巻 (単行本)

呉漢 - 下巻 (単行本)

『樂毅』を読んで、すご〜く面白くて、すっかり宮城谷作品にはまっちゃった私。今度は『呉漢』を読んでみた。樂毅の生きた時代より少し後の時代。後漢光武帝を助けた武将、呉漢が主人公。あらすじはこんな感じ。

群雄割拠の乱れた大陸を統一し、後漢王朝を開いた劉秀(光武帝)を、中国史上最高の名君と称える人は多い。宮城谷昌光の最新長篇は、その劉秀に仕えて、彼の偉業を助けた武将・呉漢の生涯を描いた大作である。
貧家に生まれた呉漢は、南陽郡宛(えん)県の城壁の外にある、彭家の農場で働いていた。己の殻に閉じこもり、地べたと向き合って日々を過ごしている呉漢。しかし彼は、他人の言葉を心に留め、時間をかけても理解する力を持っていた。彭家と縁のある潘臨(はんりん)に、その資質を認められた呉漢は、農場長を補佐する副手となる。また、出稼ぎ先で、郵解や祇登(きとう)という人物とも知り合う。特に学識豊かな祇登を、呉漢は人生の師として厚く遇するようになる。
漢王朝が倒れ、王莽(おうもう)による新王朝が開かれた時代の流れの中、新野県の県宰となった潘臨は、呉漢を亭長(警察署長のような官職)に抜擢する。誠実に亭長を務めていた呉漢だが、祇登の仇討ち騒ぎに巻き込まれ、せっかくの職を捨てて、放浪の身となる。しかしそんな彼を慕って、次々と男たちが集まってきた。そして新王朝が倒れ、動乱の時代となると、頭角を現した劉秀に仕えた呉漢は、武将の才能を開花させていく。
貧しい農民であった呉漢が、なぜ名君の劉秀から、もっとも信頼される武将になれたのか。作者が作り上げた呉漢のキャラクターを見れば、納得できるだろう。彼は常に、他人の言葉と真摯に向き合う。自分が好意を覚えた人だけではない。憎しみをぶつけてくる人の言葉も、きちんと受け止め、己の糧にするのである。また、理解できない言葉があっても、心に留め置き、ゆっくりと血肉にしていくのだ。
さらに農民として生きてきたことで、自然の力の大きさを知り“農業は合理ではできず、不合理をうけいれて昇華する心力をもたねばならない"と思っている。以上の資質を熟成させたことで呉漢は、優れた人間洞察力と、戦の呼吸を会得できたのだ。
このように成長していく呉漢と、その周囲に集まった男たちを、上巻で風味豊かに描いた作者は、下巻で彼らの戦いを活写する。劉秀の理想のために奔走する呉漢の戦いは、興奮の連続だ。魅力的な主人公の生涯と、時代のダイナミズムが、存分に堪能できるのである。

正直言って、主人公の呉漢は、樂毅に比べてちょっと魅力が乏しいというか少々地味な感じがした。貧しい農民だった彼が、なぜそこまですごい将軍になれたのかも、正直ちょっと謎?な感じで。たぶん人を見極める力はすごくあったんだろうなあ、、って思うけど。樂毅のように、戦術の天才って感じはしない。
ただ、それとは別に、この本の中では、呉漢が歩んだ地味な道のりがいろいろ記されていて。その頃の庶民の暮らしの様子とか、亭長という官職について描かれてる様子が興味深い。その時代の中国の様子をいろいろ想像しつつ読めるというのは楽しかった。