喜嶋先生の静かな世界

喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

旦那が、「これ面白そうだよ。」と薦めてくれた本、『喜嶋先生の静かな世界』。スカイ・クロラシリーズや工学部・水柿助教授シリーズなどたくさんのミステリを書いてる森博嗣さんの最新作。これは、ミステリじゃなくて自伝的小説とのこと。某国立大学の助教授だった森さんの、理系研究者生活の話らしい。なかなか面白そう。
ということで、読み出したんだけど、とってもとっても面白くて、夢中で読んでしまった。電車を思わず乗り越してしまいそうになるくらい、面白くて熱中してしまった。
主人公の僕は、大学に入学して、中学や高校とたいして変わらない学校生活に失望していた。でも、大学4年生になり、卒論生として研究室に配属になってから、大学の楽しさに気づき始める。研究というものに夢中になって、昂揚していく彼の気分がこちらにもすごく伝わってきて、それがわくわくするくらい楽しい。
卒論生の時に指導してくれた、博士課程の中村さんも、良いキャラだったなあ。そして、その後、修士、博士と進んでいく彼が、ずっと指導を受けて、尊敬していた先生が、助手の喜嶋先生。この二人のやりとりが、本当に面白い。作者の森博嗣さんが、学生時代の話だから、中身は結構古い時代のこと。1957年生まれの彼が大学生、院生時代の話なので、70年代後半から80年代前半くらいが話の中心。だから、出てくるコンピュータがすっごく古い。そもそも、研究室にもコンピュータなんてなくて、みんな、大学内にある計算機センタに出かけていって、そこで研究する時間が多い。そうかあ、、この頃、みんなが職場にも家庭にもパソコン、、なんて想像もつかない時代だったよね。
喜嶋先生と主人公が、二人、研究室で、8時間もずっと数式を書き続けて、二人で筋道を見つけて、興奮して嬉しくて楽しくて笑いがこみ上げてきた、、というところ。う〜ん。理系の研究ってこんな感じなんだなあ、、とちょっと感動するシーンだった。なんだか、そういうわくわく感ってとても羨ましく感じる。
研究生活だけじゃなく、ちょっと鈍感な主人公と、同級生の女の子との恋愛関係も描かれていて、それも楽しい。青春小説としてもいいよなあ、、。鈍感な主人公の心のセリフについつい笑っちゃったり。
すご〜く楽しく読んだんだけど、最後がね。悲しかった。つい涙がこぼれそうになったよ。

僕はもう純粋な研究者ではない。
僕はもう、、。
一日中、たった一つの微分方程式を睨んでいたんだ。
あの素敵な時間は、いったいどこへいったのだろう?

なんだか、今そのページを読み返して、また目頭が熱くなっちゃった。
この本、たぶん、また時々読み返すと思う。時々読み返して、いろんな事を考えたくなる、そんな素敵な本だった。
この小説、もともと短編の「キシマ先生の静かな生活」があって、今回それを長編にした小説だったみたい。で、短編の方もiPadでダウンロードした。そっちも読んでみようと思う。
この小説、今の研究室の院生が読んだらどう思うのかな?ちょっと感想を聞いてみたい気がした。
それにしても、今年は、読んでよかった〜と思う本との出会いが多かった。旦那がいい本を薦めてくれたっていうのもあるんだけど。良い本と出会えると、なんだか心が洗われる気がする。