両シチリア連隊

両シチリア連隊

両シチリア連隊

え?何?どういう事?意味わかんないけど、、。などとブツブツ言いながら、でもなんだかんだ、気づけば引き込まれて読んでいた『両シチリア連隊』。あらすじはこんな感じ。

一九二五年、二重帝国崩壊後のウィーン。大戦時に両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレとともに元トリエステ総督の催す夜会に招かれた。その席で彼は、見知らぬ男から、ロシアで捕虜となって脱走した末、ニコライ大公に別人と取り違えられたという奇妙な体験談を聞く。そして宴もお開きとなるころ、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で首を捻られて殺害される。そして六日後、事件を調べていた元連隊の少尉が行方不明となり……。第一次世界大戦後を生き延びた兵士たちが、なぜ今“死”に見舞われるのか。謎に次ぐ謎の果て、明らかとなる衝撃の真相とは。

この小説、“反ミステリ”と呼ばれているらしい。反ミステリの定義ってはっきりとはわからないんだけど、いわゆる正統派ミステリとは違って、探偵役がずっと謎解きをしていくというような流れの小説ではなかった。主人公もはっきりしないし、ずっと謎を追ってるわけでもないし。とはいえ、ちゃんと最後に刑事が出てきて、一応の謎解きはしてくれるんだけれど、それでも謎が100%解決したっていう感じではなかった。どこかまだ最後にモヤモヤ感が残っているような。だったら面白くないかといえば、そんな事はなく。なんだか不思議な感じが逆にわくわくするというか、すごく惹かれる小説だった。
舞台がまず、第一次大戦後のウィーンっていうのも私好み。デメルでお茶しましょう、って誘うシーンが出てきたり、リングまで歩く、、なんてシーンがあったり、それだけでもわくわく。ウィーンの風景を思い描きながら読むのも楽しかった。そして、一番謎を深める、ドッペルゲンガー?みたいな2人の存在がミステリアスで、ますます小説の不思議感を高めてくれる。最後の謎解きで、“なるほど!そういう事か!”とわかるんだけど、その謎解きの説明を、一旦図にして考えたいくらい結構複雑なところも、私的にはツボだった。
訳者あとがきで、反ミステリについていろいろ解説してくれたり、また、この作者のアレクサンダー・レルネット・ホレーニアについてもいろんなエピソードが紹介されてたりですごく興味深かった。ホレーニアは、ナチス支配がイヤで一度アメリカに亡命しかけたんだけど、亡命者の耐乏生活がいやで、やっぱりウィーンに舞い戻り、一度は戦場に出たんだけど、怪我をして戦場を離れたらしい。その後、再度招集されるのがいやで、なんとか兵役が免除される方法を探って、結局ナチス宣伝映画の脚本を書いたりしたみたい。その、彼が書いた脚本の映画が大ヒットしたなんて、なんとも皮肉な話だなあ、、って思った。それで、この『両シチリア連隊』も、戦時下で出版されたみたいなんだけど、発禁にならないように、ミステリを装ったそうだ。だから、ミステリでない部分、厭世的な部分がすごく長かったんだなあ。世界の終末を思わせるような夢の話も長々と書かれていたりして、独特の雰囲気があったのはそのせいなのかも、、。そう思うとますます興味深い本だなあって思った。私はとっても好きな本だったけど、これはちょっと好き嫌いが分かれる作品かも。第一次大戦後のウィーンという場所に興味がある人なら、きっと面白く読めるのではないかな。