俺俺

俺俺

俺俺

旦那が「これ面白そうやで」と震災前に薦めてくれていた本。みすずの読書アンケートなんかでも評価が高かったらしい。ずっと放置していたのだけど大江健三郎賞などとってしまって慌ててページをめくり始めた。ちょこっと紹介文を読むと、確かにすごく設定からして面白い。ストーリーはこんな感じ。

マクドナルドで隣の男の携帯電話を手に入れた俺(おれ)は、出来心でその本人になりすまし、持ち主の母親に振り込め詐欺を行う。しかし、その母親は俺を本当の息子と思い込み、次第に俺は「その男」になっていく。この現象が徐々に拡大し、俺が果てしなく増殖する物語。
俺の職場は「メガトン」という家電量販店。俺は「メガトン」こそ自分の居場所だと思っていたが、俺が別の俺と入れ替わっても業務は回り、ただ果てしない日常が続くことに気づく。俺の存在は常に希薄で、いつでも「誰か」と代替可能な存在だ。しかも、「メガトン」には分かり合えない意地悪な上司が存在する。社内では同調圧力が強く、みんなが特定の人間をバカにすることで、ギリギリの共同性が保たれる。
俺は「メガトン」の居心地が悪くなり、複数の俺との共同体を構成しはじめる。彼らはその場所を「俺山」と名づけ、次第にそこがかけがえのない居場所になっていく。

俺がどんどん増殖していく。上司も俺。同僚も俺。街を歩けば、ほとんどみんな俺、、ってめちゃめちゃ恐いんやけど。ものすごいスピードでコピーが増殖していて、そもそもオリジナルとコピーの区別なんかつかない状態って、、今のネット社会を見ててもすごく実感できたりするから、よけいに恐い。twitterリツイートでどんどん広がっていく様も、まさにこの俺俺状態のような。
20代の男性が主人公で、彼の口から語られる物語だから、なんとなく文体も、2chねらーっぽい。でも、中身はすごく不条理文学で、哲学的でもある。私は、どことなくカフカの『変身』を思い浮かべた。
お前はいったい誰なのか?お前は本当にお前なのか??という質問をどこまでも突きつけられているような、、。ちょっと背筋が寒くなるような話だった。でも、とっても面白かった。恐かったけれど夢中で読んだ。本を読んでて、ついつい駅を乗り越しちゃった、、というのを久しぶりにやってしまったし。好みが分かれるかも?だけど、おすすめ。