- 作者: F・W・クロフツ,霜島義明
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 文庫
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ストーリーはざっとこんな感じ。(東京創元社のHPより抜粋)
波止場で船荷を降ろす作業の途中(まさに表紙写真のような状況でしょう)、吊り上げられた樽が落ちて破損したことが話の発端です。
この小説の主人公は樽であり、自らの意志で動くはずのない物体であるにもかかわらず、樽の中身をめぐって早々と警察の介入が始まっても容易に全貌を見せません。また、内容物が明らかになっても被害者の身許すらすんなりとは割り出せず、海を挟んで英仏の首都警察を翻弄するのです。
三部構成の第一部と第二部で警察が洗い出した事実は、最終第三部で調査を担う弁護士と私立探偵に引き継がれ、「アリバイ崩し」に焦点が定まるのは第三部に入ってしばらくしてから(全体の四分の三ほど過ぎてから)なのです。332ページに至っても「アリバイのことはひとまず措【お】こう」の台詞があります。
全編これ複雑なアリバイトリックに七転八倒する物語、という印象を持たれがちではありますが、アリバイ崩しは『樽』が内包する要素の一つ、とお考えください。
荷を運ぶのに馬車を使うのが日常であったり、意外にのんびり食事をしたり(捜査中もちゃんと食べるし飲む)、なかなかに牧歌的な雰囲気が楽しく、先人に敬意を払うところも微笑ましい。
久しぶりに読んだけど、後半はやっぱり読むのをやめられない展開。こんな面白い小説を100年も前に書いていたなんて、すごすぎる。時代は、タイプライターやタイピストが出てきたり、荷馬車で荷物を運んだりって、いかにも100年前を感じさせるんだけど、そのノスタルジックな感じもすごく面白いんだよね。合間に食べてるフランスの食事も美味しそうだったりして。やっぱり面白いミステリは、再読しても面白いなあ。