「地の塩」殺人事件

「地の塩」殺人事件―女記者リジー・バドゥヒ

「地の塩」殺人事件―女記者リジー・バドゥヒ

湾岸戦争下のイスラエルが舞台という事がとても面白そうだったので、手にとってみた。あの頃のイスラエルってこんな感じだったんだなあ、、ととても興味深く読めた。あらすじはこんな感じ。

1991年1月湾岸戦争のさなか、空襲警報発令時に、警部と女性実業家の二重殺人事件が発生。ニューヨークの富豪収集家がサザビーズにロシア人作曲家スクリャービンの自筆楽譜とリトアニア系のハイム・スーチンの絵画を内密に鑑定依頼し、サザビーズは芸術品の密売買を危惧してインターポールに捜査を依頼、インターポールはロシアからの移民が急増しているイスラエルが、芸術品の窓口になっているのではないかと推測して、、。湾岸戦争下のイスラエルを舞台に描かれた、大型女流作家の日本デビュー作。

ミステリとしてもなかなか面白いんだけど、イスラエルという国の、湾岸戦争下の状況を淡々と描いているところが、遠い東の果ての国民にとってはすごく興味深い。毎晩のようにスカッドミサイルが撃ち込まれ、その度に空襲警報が鳴り、みんなガスマスクを持って家の中の密閉室に走って逃げる。通気口はガムテープで貼って、バスルームなどの密閉室に隠れながらラジオの情報に耳を傾け、ラジオから「ミサイルが落ちたのは○○地区です。」という放送があると、そこから遠い地区の人たちはほっと安心して部屋から出てきて、また普通の生活に戻る。そうしたら、だいたいは母が電話してきてお互いの無事を確認しあう。そんなご時世だからどこもレストランは開店休業状態。みんな早めにまっすぐ家に帰る。いったいいつまでこの戦争が続くんだろう、、と憂鬱になっていたりして。
主人公は女性記者のリジー。男女同権で競争社会のイスラエル。女性にも兵役がある。そんな社会の中、新聞記者として、相棒の女性カメラマンとともに、毎日あちこちの現場に出かけ、取材し、原稿を書いて、事件について推理する。なかなか魅力的で素敵な主人公。母との関係はビミョーで、「戦争が不安だから一度家に帰ってきて。それか私が貴女のところに行くから。」という母からの電話に、言い訳しつつ、距離を置こうとしたりして。こういうところ、イスラエルでも日本でも、心情はそんなに変わらないよなあ、、なんてちょっと共感。
第二次世界大戦の頃の抵抗運動や、いろんな国から流失したユダヤ人芸術家の作品のこと、サルトルボーボワールのいた頃のパリのカフェフロール、いろんな話が出てきて、そういう歴史的な話も面白いし、それが今の殺人事件につながってくるところ、ユダヤコネクションの話も面白くてドキドキする。
イスラエルって行った事ないし、たぶん行かないまま終わっちゃいそうだなあ、、と思うんだけど、でも本当は一度は行ってみたかった国だ。キリスト教信者の叔母は、イスラエルに教会の人たちと旅したことあるんだよね。とても素晴らしい場所だったそうだ。(信仰があるから、感動もひとしおだよね。)エルサレムも興味があるし、身体が浮いちゃう?くらいの死海にもつかってみたい。
もう25年くらい前になるんだけど、モーリシャスに行った時、プールのそばのベンチでちょっとおしゃべりした若い女の子二人組がイスラエル人だった。「どこから来たの?」と聞くと、その時私が持っていたかばんについてる、国旗のマークを指さして「ここから」って言われて焦った。そのバッグには、いろんな国の国旗がいっぱいプリントされていたんだけど、どれがどの国かなんて覚えてないし。その時一緒にいた旦那が「イスラエル?」って聞いてくれて助かった。それ以来一生イスラエルの国旗の模様は忘れないけどね。イスラエルは男女問わず全員兵役があるので、その前にって事で旅行に行く若い子が多いらしい。あの時出会った女の子達。湾岸戦争時には、こんな風に毎晩空襲警報で避難してたりしたんだろうか。戦地に行ったりしたのかなあ。なんて、いろんな事に思いをはせた。
この女性記者リジーシリーズって、日本ではこの「地の塩殺人事件」が1冊目なんだけど、実は本国イスラエルではこれより前の話も出版されてたりして、シリーズ物らしい。ヘブライ語の翻訳ってきっとやる人もそんなに多くないだろうけど、また他の本も訳してほしいなあ。イスラエルには行けなくても、イスラエルに関する本を読んだり映画を見たりしていろんな事をもっと知りたいなあ、、と思ったりした。なかなか面白い本だった。